コーヒーが好きな木谷映見です。
現在ラーニングエクスペリエンス課(通称 LX 課)という部署で、構築案件なども担当しつつ、AWS のトレーニングをおこなっています。
ありがたいことに「あなたの教え方は分かりやすい」と言っていただけることがありました。そこで、私が普段人に何かを教える立場になったときに意識していることをまとめてみます。
この記事に書いてあること
- 教える立場の意識レベルの話
この記事に書いていないこと
- 具体的なコンテンツの作り方や説明の仕方
- 根底にある意識
- トレーナー(教える人)とトレーニー(教えてもらう人)は対等
- 自分の常識は常識ではない
- 事実と自分の意見を分ける
- 「Why」の使い方に気を付ける
- 自分が同じ説明を聞いて理解できるか
- 終わりに
根底にある意識
私はエンジニアです。以下の思いがあります。
「エンジニアリングは面白い」
「エンジニアリングを通して人の要望をかなえたい」
「エンジニアリングで世の中を良くしたい」
私は第一にエンジニアでありたいと考えていて、「先生になりたい」とか「教えてあげたい」という要望があまりありません。
人に何かを教える立場になったときに何を考えているかというと、なんなら無意識で何も考えていないくらいなのですが、「相手が困っていて聞かれたから」「これから一緒に働くから」「エンジニアの仲間だから」「一緒にエンジニアリングで世の中をよくしたいから」のようなことを考えています。
大層な書き方になってしまいましたが、「エンジニアリングでみんなハッピーになったらいいよね~」という感じです。
仕事だからとか、エンジニアは学習し続けるものだから、という意識もなく、私が何かを教える立場になったときは…それは本当に些細なタイミングで、例えば入社したばかりの人にトイレの場所を教えるとか、社内システムへのログインの仕方を教えるとか、そういうときとまったく同じ気持ちです。
なんなら「教える」ということに対して「『教える』なんておこがましい!」と思っています。ただ自分が知っていることを、まだ知らない(かもしれない)人に伝えているだけ、という意識です。
また、私が何かを教えて(伝えて)相手にうまく伝わっていなかったり相手がうまくできなかったりするとき、基本的に責任は私(教える方)にあると考えています。
相手が失敗してしまったとしたら、うまく教えられなかった私の責任と考え、自分の教え方や伝え方を見直していく、というスタンスです。
トレーナー(教える人)とトレーニー(教えてもらう人)は対等
ここから、教える立場の人を「トレーナー」、教えてもらう立場の人を「トレーニー」と呼びます。
以前以下のブログで、「成人学習」という教育手法について取り上げました。
sabawaku.serverworks.co.jp
成人学習(andragogy、アンドラゴジー)とは、成人の発達段階を考慮に入れた学習心理学の知見を多く取り入れた教育手法のことで、アメリカの教育学者であるマルコム・ノールズ博士(Dr. Malcolm S. Knowles)によって広められました。成人の学習には、子どもと異なった以下の 4 つの要素があります。
子どもの学習 | 成人の学習 | |
---|---|---|
自己概念 | 未成熟、依存型 | 成熟、主体型 |
経験 | 教育者(トレーナー)の経験を元に学習 | 学習者(トレーニー)の経験を元に学習 |
レディネス(準備状態) | 社会からのプレッシャーで学習する | 必要性や興味を感じることによって学習する |
方向付け | いつか役に立つことを教科書で学ぶ | 現在の問題を解決するために学ぶ |
詳細はブログをご参照いただきたいのですが、「大人の学習」と「子どもの学習」は根本的に違います。私もトレーナー向けの研修を受けて初めて体系的に学んだのですが、言われてみればそうだよなということばかりです。
私は特にこの中の「自己概念」というものを強く意識しています。
トレーニーは成人なので、トレーナーが一方的に発信するだけの教育や、トレーナーが作り上げたものをただ受けるだけの教育では、トレーニーの持つ「自分のことは自分で管理できる」という自己概念との間に抵抗感を生む可能性があります。
成人学習の場合はトレーニーが主役・主導であり、個々が尊重された状態の環境が重要です。
「皆さんは未熟だから教えてあげますよ」という教育者主体の義務教育のような学習は個々が尊重されていると言えず、学習効果やモチベーションが下がる可能性があります。
本当に当たり前のことですが、トレーニングや研修では、トレーニーが物事を理解して自分で仕事を推進できるようになることが最も重要なことです。 社会生活ではトレーナーとトレーニーは対等で、同僚であったり、契約書を交わした顧客であったりします。 どちらが偉い、どちらが下ということはなく、目的を達成するために協力しあうもので、個々の考えが尊重されなくてはなりません。
分からないことを聞いたときに偉そうにされたらちょっと嫌ですよね。
特に教える立場の場合は驕ることが無いよう自分を律する必要があると考えています。
「うまく教えてやろう」とするのではなく、トレーニーは何が分からなくて困っているのか?質問に至った背景は何だろう?ということに意識を向けます。
嘘をつかない、ごまかさないという誠意も重要です。
「教える」「教えられる」の立場はいつでもどこでも入れ替わる
例えば社内で今教える立場であっても、数年経てば同僚です。
一緒に仕事をする仲間であり、教えていた人から自分が教わる立場になることもあります。
昨今は優秀な若手の方が多いですから、共に学びあい助け合う仲間である意識を持ちたいですよね。
自分より優秀で経験豊富な方がトレーニングを受けてくれることも多いので、いつも「ああ~~私なんかのトレーニングを受けてくださってありがとうございますっ」という気持ちでトレーニングをしたり、質問にお答えしたりしています。
「考えさせてやろう」ではなく「トレーニーの経験から腹落ちできないか?」
答えを教えるのではなく本人に考えさせる、という教育手法があります。
私もトレーニー同士でディスカッションしてもらって考えてもらうことがあります。
この時「考えさせてやろう」というトレーナーの思惑が透けて見えると、トレーニーの経験からではなく「トレーナーは何て答えてほしいんだろう?」という思考になってしまいます。
トレーニーの経験から解決方法を考えていただき、答えにたどり着いてもらう方が、頭を使いますし腹落ちしやすいと考えています。
自分の常識は常識ではない
自分が当たり前に理解していることは、周りの人にとって全然常識ではないことがあります。「普通こうでしょ」という考えは大変危険です。
特に優秀な人ほど自分の常識を過信しやすい傾向にあるように思います。自分はできてしまうからなぜトレーニーができないのか分からない、質問の意図や背景を探る前に「ググればわかる常識」、と考えてしまうことがあるのではないでしょうか。
特に IT は変化が早いので、今までの常識が昨今では通用しなくなっていたり、技術のアップデートで今までできなかったことができるようになっていたり、あるいはできなくなっていたりということが日常茶飯事です。
「これってこうですよね?」と軽く聞かれたときでも「いやいや(笑)ふつー違うでしょ(笑)」と答えてしまうのは物凄く危険なことだと考えていて、自分が常識だと思っていたことがアップデートされて変わっているかもしれません。そうだったらすごく恥ずかしいですよね。
また、「トレーニーが一生懸命考えたことかもしれない」「トレーニーなりに調べた結果かもしれない」「忙しそうなトレーナーに勇気を出して聞いてみた」かもしれない状況で、冗談のように笑いながら返事をするのはトレーニーに対して大変失礼です。
事実と自分の意見を分ける
「技術的な事実」「実際の業務で経験した事実」と、「そこから感じた自分の考え」は分けて伝えるようにしています。
事実は変えようがないものなので、できるだけそのまま伝えます。
その時に使ったドキュメントや図面があるとより正しい情報になりますので、根拠となる資料は提示するようにします。
設計などにおける一般的なベストプラクティスや方針を伝えるときも、公式のドキュメントをあわせて提示します。
経験から得た教訓や自分の考えには主観が入りますので、自分の考えを話すときはすごく慎重になります。伝え方もアサーティブコミュニケーションを意識し、「自分はこういった経験やこういった資料からこういう風に考えているけど、実際の現場では他の方とコミュニケーションをとって状況を見て正しい知識をもとに判断してくださいね」という風にお伝えします。
自分の考えや主観をまるで一般論かのように話してしまうのはよくないと考えています。
「Why」の使い方に気を付ける
「なぜこういう対応を選択したのか考えてみよう」というのはとても大事です。
何か対応をするたび自分に「なぜ」と問いかけ考えるようにしていると、技術や業務に対する深い理解につながります。
しかし、他人からの「なぜ」の問いかけは詰問になる可能性があるため注意が必要です。
「なぜこうしなかったのですか?」
「なぜやらないのですか?」
「なぜできないのですか?」
ではなく、
「○○なので、△△してください」
「△△してほしいのですが、□□とした理由はありますか?(背景の把握)」
というように心がけます。
指導は「理由」と「具体的改善行動」のみによって行われるべきであると私は考えています。
自分が同じ説明を聞いて理解できるか
私の場合ここが大きいような気がするのですが、私、地頭がそんなに良くないもので、腹落ちするのに絵を描いたり、何度も読み返したり、自分の言葉で書き直したりしないと理解できないことが多々あります。
だからこそ、
「全く初心者の私がこの説明で理解できるのか?」
「クラウドを初めて学ぶ人がこの説明を聞いてクラウド楽しい!便利!と思ってくれるか?」
ということをいつも考えています。
せっかくやるならちゃんと理解した方がいいし、楽しい方がいいですよね。
トレーニングをする際は自分が腹落ちできる程度に嚙み砕いて理解しておき、図を使ったり液タブでペインティングしながら説明するようにしています。
時間的に全部は説明しきれない場合は「○○についてはこちらのリンクを参照ください」などの注意を挟むようにしています。
終わりに
書いていて思いましたが、突出して特別なことは何も書けていないかもしれません…。また、書いたものの自分でもうまくできていないことが多々ありますので、その点は精進してまいります。
総じて「うまくしゃべろうとしていない」「うまく教えようとしていない」という感じはあるかもしれません。
「先輩になるけど不安だ」、「トレーナーになるけど不安だ」というときは、人材会社が提供しているコーチング研修やトレーナー向け研修を受けるのもよいと思います。
本記事が何かを教える立場になる皆様の参考になれば幸いです。
emi kitani(執筆記事の一覧)
AS部LX課。2022/2入社、コーヒーとサウナが好きです。執筆活動に興味があります。AWS認定12冠