エンジニアの成人学習におけるポイント

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コーヒーが好きな木谷映見です。

現在ラーニングエクスペリエンス課(通称 LX 課)という部署で、みなさまに学習体験を提供することを目的として日々励んでおります。

はじめに

さて、私自身もそうなのですが、エンジニアという職業柄、日々学習を重ねていないと、いざという時スタートダッシュが切れないというシーンが多々あります。
本記事をお読みいただいているエンジニアの皆様の中に、こんな思いの方も多いのではないでしょうか。

  • 勉強しなきゃいけないのは分かってるけど、時間が取れない
  • 勉強するためのやる気が出ない
  • 資格を取れと言われ勉強しているけど、プレッシャーでしんどい

大人になってから新たに学ぶことは、子どもが学校で学ぶことと違いがあります。
本記事では成人学習における 4 つの要素をご紹介します。
「自分が学習意欲を保てないのはこの要素が足りないかもしれない」、「自分が学習意欲を保てているのはこの要素のおかげだな」など、ご自身の立場で考えながらお読みいただくと、面白いかもしれません。

成人学習(andragogy、アンドラゴジー)とは

成人学習(もしくは、成人教育)という言葉があります。
成人の発達段階を考慮に入れた学習心理学の知見を多く取り入れた教育手法のことで、アメリカの教育学者であるマルコム・ノールズ博士(Dr. Malcolm S. Knowles)によって広められました。マルコム・ノールズ博士によると、成人の学習には、子どもと異なった以下の 4 つの要素があります。

子どもの学習 成人の学習
自己概念 未成熟、依存型 成熟、主体型
経験 教育者の経験を元に学習 学習者の経験を元に学習
レディネス(準備状態) 社会からのプレッシャーで学習する 必要性や興味を感じることによって学習する
方向付け いつか役に立つことを教科書で学ぶ 現在の問題を解決するために学ぶ

自己概念

学習者は成人なので、教育者が一方的に発信するだけの教育や、教育者が作り上げたものをただ受けるだけの教育では、学習者の持つ「自分のことは自分で管理できる」という自己概念との間に抵抗感を生む可能性があるそうです。「今やろうと思ってたのに、言われたらやりたくなくなった!」という経験はありませんか?
成人学習の場合は学習者が主役・主導であり、個々が尊重された状態の学習環境が重要です。「皆さんは未熟だから教えてあげますよ」という教育者主体の学習は、個々が尊重されていると言えず、学習効果が下がる可能性があります。

経験

学習者は成人なので、それまでの人生における経験がたくさんあります。「学習者の経験自体を学習に利用する」「学習者の経験を学習に紐づける」ことで、より学習に熱中でき、学習効果を上げることができると言われています。
例えば、新しく学んだ法則に当てはまる過去の体験を思い出してもらい、それをグループ内で共有してもらうなどのグループディスカッションは、まさにこの「経験」をもとに学習していることになります。

レディネス(準備状態)

レディネスとは、何かを学習する際に必要となる条件や、心身の準備、環境などが整っており、学習の準備ができている状態を表す言葉です。 学習者が学習する内容に対して必要性を感じていたり、興味を持ったりしている状態は、レディネスが整った状態です。レディネスが整った状態で必要十分な内容を学習することで、学習効果が高まります。

AWS を使ったシステムの設計・構築をするエンジニアであれば、AWS に関する内容に必要性を感じたり、興味を持ったりします。リーダーやマネージャーであれば、案件を進めるためのマネジメント知識に必要性を感じたり、興味を持ったりします。 ここから「何をどれくらい学べば実際の業務で役に立つか」という具体的なところまで課題を落とし込めると、より学習へのレディネスが整ってきます。

方向付け

方向付けとは、「学習したことが実業務のいつ・どこで・どう役に立つか」という学習の目的を明確に示すことです。成人学習の場合、学んだ知識を活用して課題を解決することを目的として学習します。そのため、学習した内容が「どのように課題解決に活きるか、どれくらいの粒度で身についていれば課題解決できるか」という学習の方向づけができていることが重要です。
いつ役に立つかという時間的見通しも重要な観点で、そこから逆算して学習計画を練る必要があります。

学習がはかどらない原因は何か?

もし本記事をお読みの皆さまが「学習がはかどらない」と感じている場合、上記 4 つの観点の中の何かが抜けているかもしれません。自分自身の状況に当てはめて、ぜひ考えてみてください。

  • 勉強しなきゃいけないのは分かってるけど、時間が取れない

    • 学習の必要性や興味が感じられておらず、レディネス(準備状態)が整っていない
      • 優先的に学習の時間を取らなければならないと感じている業務上の理由は具体的に何なのか書き出し、レディネス(準備状態)を整える
  • 勉強するためのやる気が出ない

    • 漠然と参考書を読むだけの学習になっており、学習に熱中できていない
      • 今学習していることを自身の業務と重ね、「ここでこの技術が使えるのではないか?」と具体的にイメージしたり、実際にやってみたりして、自身の経験と紐づけながら学習する
  • 資格を取れと言われ勉強しているけど、プレッシャーでしんどい

    • 「とにかく資格取得しなさい」という圧力は自己概念の観点で、個々が尊重されていないと感じてしまう
      • 学習スケジュールを提示するなどして、自身のペースで学習したい旨をメンバーとすり合わせる
    • いつ役に立つのか分からない状態で「資格取得」という見えやすい指標による評価のための学習となってしまい、方向付けができていない
      • 学習内容のどのあたりが活かせる業務にアサインされる予定なのかを確認し、方向付けする

体のレディネス

ここからは私の持論です。「本当に本当に時間が取れず、夜も眠れないほど忙しい」という方は、無理して学習せず、休んで体のレディネスを整えてください。

コカ・コーラ の CEO であったドナルド・R・キーオ氏の言葉を引用いたします。

Imagine life as a game in which you are juggling some five balls in the air. You name them work, family, health, friends, and spirit and you're keeping all of these in the air.

You will soon understand that ‘work’ is a rubber ball. If you drop it, it will bounce back. But the other four balls - family, health, friends and spirit - are made of glass. If you drop one of these, they will be irrevocably scuffed, marked, nicked, damaged or even shattered. They will never be the same. You must understand that and strive for balance in your life.

人生は5つのボールをジャグリングしているようなものだ。その5つとは、仕事、家族、健康、友人、精神だ。 仕事のボールだけはゴム製で、落としても戻ってくる。だが、他の4つはガラス製で、落としてしまうと傷がつき、最悪割れてしまう。

仕事以外の家族、健康、友人、精神のボールを守るためにはご自身の体がなによりも大事ですし、無理した状態で学習しても体のレディネスが整っていないため学習効率が下がります。これも「自己概念」の個々の尊重ではないかと思います。

私の考えですが、エンジニアの本質は「日々の課題をエンジニアリングによって解決する」「新しい体験・価値をエンジニアリングによって提供する」ことであり、エンジニアリングは私たちの生活をよりよくするものです。エンジニアリングそのもので疲弊してしまうのは非常にもったいなく思います。

私も休日は全く勉強しない日があります。しっかりリフレッシュして、皆さまと一緒にモチベーションを高く、課題解決のために前向きに学習していけたら嬉しいです。

おわりに

私を含め、サーバーワークスで教育・育成にかかわる部署の社員は、これらの要素の他、様々な教育手法を学び、学習者の方々に最高の学習体験を提供するために日々尽力しています。
私が成人学習の要素を学んだ時は、成人学習の要素は、教育者が学習者に学習体験を提供する際に取り入れるべき要素という側面が強いように感じました。
ですが、学習者の方々にもこれらの要素を知っていただくことにより、一層学習効果が高まるのではないかと思い、本記事を執筆しました。

成人の学習では、学習者と教育者は対等です。技術力を必要とするすべての人々・同じ技術を学ぶ仲間を最も尊重し、慢心することなく、学習体験の提供をおこなってまいります。
本記事が学習に対して準備状態を整えるための一助となれば幸いです。

また、LX 課では、AWS トレーニングコンテンツの提供を行っております。 現役 AWS エンジニアがお客様のご要望に沿って様々なトレーニングをご提供いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

www.serverworks.co.jp

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emi kitani(執筆記事の一覧)

AS部LX課。2022/2入社、コーヒーとサウナが好きです。執筆活動に興味があります。AWS認定12冠